ひとりかくれんぼという言葉を、耳にしたことがある方は少なくないのではないでしょうか。
近年はメディアで取り上げられる機会も増え、映画やドラマの題材になることも珍しくありません。都市伝説や怪談の一種として語られることが多く、興味を持って調べている方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、軽い気持ちで調べているうちに、思っていた以上に踏み込んだ内容だと気づく方も多いようです。今回は、ひとりかくれんぼとは何かという基本的な部分から、行う上での注意点、伝えられているやり方、そして実際に語られている怪談まで、順を追ってご紹介します。
恐縮ですが、本記事はあくまで紹介を目的としたものであり、実践を推奨するものではありません。その点をご理解いただいたうえで、読み進めていただければと思います。
ひとりかくれんぼとは何か
まずは、ひとりかくれんぼがどのようなものなのか、その中身から見ていきます。
ひとりかくれんぼは、降霊術の一種として語られている儀式的な遊びです。地域によっては「ひとり鬼ごっこ」と呼ばれることもあり、呼び名の違いこそあれ、内容としてはほぼ同じものを指していると考えられます。
その起源については、はっきりとした記録が残っているわけではないようです。関西や四国地方では、コックリさんと並んで古くから知られていた怪談の一つだったという説があります。土地に根ざした言い伝えとして、口伝えに広まっていった経緯があるのかもしれません。
一方で、近年の急激な拡散ぶりを踏まえると、インターネットを経由して広まった比較的新しい都市伝説である可能性も指摘されています。ある大学のサークルが、都市伝説の拡散過程を研究する目的で意図的に流したのではないか、という説も囁かれているようです。
真偽のほどは定かではありません。ただ、複数の起源説が並び立っていること自体が、この都市伝説の奥深さを物語っているとも言えるのかもしれません。
ひとりかくれんぼが語られる際、しばしば比較対象として挙げられるのがコックリさんです。コックリさんは硬貨と紙を用いて霊を降ろすとされる占いの一種で、日本国内で長く親しまれてきました。ひとりかくれんぼも同様に、道具を媒介として霊的な存在を呼び寄せる、あるいは自らの分身のような存在を作り出すという点で、共通した性質を持っていると考えられます。
ぬいぐるみに名前を与え、水に沈め、刃物を用いる。この一連の流れは、遊戯というよりも儀式に近いものと捉えるほうが自然かもしれません。だからこそ、後述するような注意点が数多く語られているのだと思います。
似たような降霊術としては、指スマや数取りゲームなど、道具や掛け声を用いて何かを呼び込むとされる遊びが各地に伝わっています。それぞれ細部は異なるものの、日常と非日常の境界をあいまいにする点では共通していると言えるでしょう。ひとりかくれんぼも、そうした系譜に連なる存在として位置づけられそうです。
ここまでで、ひとりかくれんぼがどのような成り立ちを持つ都市伝説なのか、おおまかに掴んでいただけたのではないかと思います。続いては、実際に行う上で欠かせない注意点について見ていきます。
行う前に知っておきたい注意点
ひとりかくれんぼについて調べる際、最も強調しておきたいのが注意点です。結論から申し上げますと、大前提として「行うべきではない」という考え方が広く共有されています。
注意点として「行ってはいけない」と述べるのは、一見すると矛盾しているようにも感じられるでしょう。ですが、これには理由があります。実際に危険な事例が数多く報告されているからです。
実施中に起きたとされる怪奇現象には、いくつかのパターンが繰り返し語られています。儀式に使ったぬいぐるみが元の場所から動いていたという報告、テレビの画面に見覚えのない映像や顔が映り込んだという報告。放送が終わっているはずの時間帯に人の声のような音声が聞こえてきたり、家には自分しかいないはずなのに物音がしたりといった声も少なくありません。
さらに気になるのは、正しい手順で終えたとしても、その後にも影響が続くとされる点です。夜になると嫌な夢にうなされることが増える、物が倒れる音やラップ音のようなものが鳴る。誰かに見られているような視線を感じたり、耳元で自分の声のような囁きが聞こえたりする、といった体験談も見られます。
こうした現象が起きる背景には、ひとりかくれんぼの持つ儀式性の強さが関係していると考えられます。素人が手順どおりに行ったとしても、本来の意味での降霊術が成功する可能性は決して高くはないはずです。ただ、儀式めいた要素が色濃いために、まれに周囲の霊的な存在が共鳴するような形で、何らかの現象が引き起こされる可能性も否定できない。多くの語り手に共通する見解のようです。
もう一つ、重要な注意点として挙げられるのが決められた手順を守るということです。ひとりかくれんぼには、コックリさんと同様、細かく定められた手順が存在します。準備の段階から本番まで、手順どおりに進めることが求められます。
定められた手順そのものが「儀式を無事に終えるため」に組み立てられている、という考え方があります。つまり、手順を踏み外すことは単なる失敗にとどまらず、取り返しのつかない事態につながる可能性もあるということです。せっかく準備を整えたのに、手順を誤ったために思わぬ結果を招いてしまう。そうした話も語られています。
以上のことから、ひとりかくれんぼは興味本位で安易に手を出すべきものではないと考えられます。もし内容を知った上でなお実施を検討されている場合は、あくまでご自身の判断と責任のもとで考えていただく必要があります。
危険性について理解したところで、次は実際にどのような手順で行われるとされているのか、具体的に見ていきましょう。
ひとりかくれんぼのやり方
ここからは、一般的に伝えられているひとりかくれんぼのやり方をご紹介します。必要な物品や準備に一定の時間がかかるため、まずは全体像を把握しておくことが大切です。
必要物品
手足のついたぬいぐるみ、米、縫い針と赤い糸、刃物、コップ一杯の塩水、自分の爪、そしてテレビ。いずれも特別な入手経路を必要とするものではありませんが、儀式の意味づけという観点からは、一つひとつに理由があるとされています。
事前準備
まずぬいぐるみのお腹を裂いて中の綿を取り出し、代わりに米と自分の爪を入れます。裂いた部分は赤い糸で縫い閉じ、余った糸は切らずにぬいぐるみへ巻きつけておきます。続いてぬいぐるみに名前を付け、お風呂や洗面台に水を溜めておきます。
あわせて、押し入れやトイレなど、実際に隠れる場所をあらかじめ決めておきます。その場所に、塩水を入れたコップと刃物を用意しておく、という流れです。
本番の手順
まずぬいぐるみに向かって「最初の鬼は自分の名前だから」と三回繰り返して話しかけます。その後、水を溜めた場所へ行き、ぬいぐるみを水の中に沈めます。部屋に戻ったら、テレビ以外の電気をすべて消し、テレビだけをつけたままにしておきます。
目を閉じて十秒数えたのち、刃物を持って再びぬいぐるみのもとへ向かい、「見つけた」と言いながら刃物をぬいぐるみに向けます。続けて「次はお前が鬼」と告げ、そのままぬいぐるみを置いて隠れ場所へ移動します。
隠れている間は必ず塩水を持ち、静かに過ごし、決して家の外へ出てはいけないとされています。隠れる時間の目安は二時間程度で、それ以上続けると精神的な負担が大きくなるという説もあるようです。
終わらせる際には塩水を口に含んだまま隠れ場所を出て、何を見たり感じたりしても、途中で塩水を吐き出さないことが重要だとされています。最後にぬいぐるみを見つけ、口に含んだ塩水を吹きかけながら「私の勝ち」と三回繰り返すことで、一連の儀式が終了する。そうした構成になっています。
なお、使い終えたぬいぐるみについては、燃える形で処分するのがよいとされています。自宅で燃えるゴミとして出す方法のほか、近隣の寺院でお焚き上げをしてもらうという方法も伝えられています。
別の手法
地域や語り手によっては、別の手法が伝わっている場合もあります。深夜三時に塩水を張った風呂桶の周りに蝋燭を立てて灯し、室内の照明をすべて消したうえで儀式を行うという形式や、ぬいぐるみに米とあわせて別の中身を入れる形式などが語られることもあります。
細部は伝承によって異なりますが、道具を媒介にして何かを呼び込み、決められた手順で終える。その基本的な構造は共通していると言えそうです。
手順を知ると、儀式としての緊張感が伝わってくるのではないでしょうか。ここからは、実際にこの都市伝説にまつわるとされる怪談を一つご紹介します。
実際に語られる怪談
ある晩、オカルト好きの青年が、以前から気になっていたひとりかくれんぼをついに実行に移すことにしました。友人にも声をかけようとしましたが、深夜にもかかわらず連絡がつきません。それでも彼は臆することなく、ネットの掲示板に決行を書き込みます。
見知らぬ相手からの応援や冷やかしの声を受けながら、彼は少しずつ緊張と高揚感を高めていきました。ぬいぐるみには、連絡のつかない友人の名前をふざけ半分でつけ、手順どおりに水へ沈め、電気を消し、刃物を持って向かうという流れを淡々とこなしていきます。
隠れ場所に潜んでからしばらくは、これといった異変もありませんでした。掲示板のやり取りも、次第に落ち着いた雰囲気になっていきます。ところが、開始から二十分ほど経ったころ、テレビから聞こえるはずのない砂嵐のような音が響き始めます。放送時間としてはあり得ないはずのその音に、彼は違和感を覚えずにはいられませんでした。
さらに時間が経つと、家の扉が開き、そして閉まる音が聞こえてきます。誰もいないはずの家の中で、何かが自分を探して動いているのではないか。そう考えた瞬間、全身の血の気が引いていき、思うように身体を動かせなくなってしまいます。
助けを求めて掲示板に書き込もうとしても、これまで反応の良かった相手たちからの返信がぱたりと途絶えてしまいます。絶望的な気持ちに包まれていたそのとき、彼の携帯が鳴ります。相手は、連絡がつかなかったはずの友人でした。
電話越しに励まされ、彼は塩水を口に含んで隠れ場所を後にします。暗がりの中、足元の何かに躓きながらも、どうにか塩水を吐き出さずに耐えます。そして、電話の向こうから聞こえてきた声は、決してその友人のものではありませんでした。
ひとりかくれんぼにまつわる怪談の多くは、こうして日常の延長線上にふとした違和感が入り込んでくるという構成を取っているようです。だからこそ、読む側としても、どこか他人事ではないような感覚を覚えるのかもしれません。
物語としての怖さを味わったところで、最後にあらためて、この都市伝説とどう向き合うべきかを整理しておきます。
まとめと心構え
ここまで、ひとりかくれんぼとは何か、行う際の注意点、伝えられているやり方、そして怪談としての語られ方について紹介してきました。
あらためて整理すると、ひとりかくれんぼは降霊術としての側面を持つ儀式的な都市伝説であり、実施中だけでなく終了後にも怪奇現象が報告されるなど、危険性が高いとされている遊びだと言えます。手順が細かく定められているのも、単なる作法としてではなく、無事に終えるために必要な要素として位置づけられているようです。
繰り返しになりますが、本記事の内容はあくまで都市伝説としての紹介を目的としたものであり、実践を推奨するものではありません。内容に興味を持たれたとしても、実際に行うかどうかについては、危険性を十分に理解したうえで、ご自身の判断と責任において考えていただく必要があります。
都市伝説や怪談には、知ってはいるけれど実際には踏み込まない、という距離感で楽しむ側面もあるのではないでしょうか。ひとりかくれんぼについても、その背景や物語を知ることそのものを楽しんでいただければと思います。


